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Letters arpak教育活動を支援する学校施設整備
「学校施設整備」というと、新築や改修など新たに施設を整備することがイメージされるのではないでしょうか。しかし、既に大量の校舎がある現在においては、既存の学校施設でどのように教育活動を行うかが重要な検討課題です。
教育活動を支援する学校施設整備
「学校施設整備」というと、新築や改修など新たに施設を整備することがイメージされるのではないでしょうか。しかし、既に大量の校舎がある現在においては、既存の学校施設でどのように教育活動を行うかが重要な検討課題です。教育目標の実現に向けて、建築的にはどのような支援ができるのか、本稿はこれまであまり議論されてこなかった既存校舎に着目します。
学校教育と学校建築の現状
現在、学校教育では、目指すべき新しい時代の姿として、「すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと協働的な学びの実現」が提言されています1)。同時に、「どのように学ぶか」という視点から、「主体的・対話的で深い学び」、いわゆるアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善が求められています2)。つまり、教員による一斉講義に加え、児童同士が協働する活動の重要性が高まっています。
他方、学校教育が行われる校舎に目を向けると、全国には築45年以上の施設が半数以上を占めており、そのうち改修が必要とされる面積の割合は約74%注1に達しています。しかし、老朽化した校舎をすべて改修もしくは改築することは、財政的また時間的に現実的ではありません。そのため、長寿命化計画のもと、既存校舎をより長く使うことが求められています。
これらの校舎の多くは標準設計に基づいて設計や建設がされています。例えば、普通教室(以下、CR)は廊下に沿って配置されており、CRには黒板が一方向に設置され、児童机が黒板に向けて配置されることが想定された構成となっています。このような形態である理由は、教員による一斉講義に対応するためです。しかし、求められる教育方法が多様である現在では、標準設計とは異なる平面形状の校舎も見られるようになっています。例えば、オープンスペース(多目的スペース)(以下、OS)は、CRと一体的に利用したり、CRでは困難な活動を行ったりするなど、多様な学習活動を可能にする空間として整備されています。そのため、OS等のある校舎であれば、一斉講義以外の活動にも対応しやすいと考えられますが、多くの学校では、教員による一斉講義を前提とした標準設計の校舎で、多様な方法での学習活動(以下、AL注2)を実施しなければなりません。
では、多様な学習活動を実現するために、建築的にはどのような方策が考えられるのでしょうか。以下に、筆者が行った研究で3) 4)取り上げた方策事例と知見を紹介します。
既存校舎を活用した方策
既存校舎の教室を児童同士の対話の促進を目的とした部屋(以下、AL室)に転用した事例として、A市の取り組みがあります。
A市では、市立のすべての小学校にAL室を整備し、グループ用机、背もたれのない椅子、可動式ホワイトボードなどを配置しました。部屋の整備に際して、増築や改修等は行っていません。どの教室をAL室に転用するかは各学校の判断に委ねられていますが、多くの学校では、複数室あることやCRに近いこと、またCRより広いことを希望していました。しかし実際には、希望する部屋数や配置、面積の部屋を転用できていない場合もありました。これは既存校舎を活用することが一因で生じた制約と考えられます。
しかし、このような建築上の制約がある中でも、AL室においてALが実施されている実態が確認されました。ある学級での複数の授業で構成される一連のALを分析した結果、教員がCRとAL室を選択的に利用していることが明らかになりました。その内容は、CRでは個人で行う活動、AL室ではグループ単位で行う対話や作業の共同活動が行われていました。教員は、学習上の目的を達成するような方法や内容で活動を行うことを計画していたのですが、教員がCRとAL室を選択的に利用した理由としては、AL室がCRと異なる家具や広さがある部屋として整備されたためであることが明らかになりました。さらに、授業後に行った教員と児童へのアンケート調査から、AL室では児童がより意欲的に学習に取り組んでいたことや、AL室を使って授業を行うことに対して肯定的であることを把握しました。このことから、AL室の整備は、教員にCRとAL室を選択的に利用しながらALを行うことを促し、AL室はCRと相互補完的にALの実施を支援する役割を果たしていると考えています。
次に、AL室での共同活動を詳細に分析すると、教員は児童同士の対話の時間を多く取り入れた授業を実施したほか、児童に対話を促す声掛けをしていました。また、多くの児童は「仲間と話しやすい」「声が聞き取りやすい」といった意見を持っていました。これは、グループ用机を使うことによって児童同士の距離が近くなることに起因しています。このことから、AL室に導入されたグループ用家具が、児童同士の対話の活動を促進していることが明らかになりました。
以上の知見から、CRと異なる空間特性を備えたAL室を整備することは、既存校舎でALの実施を支援する一方策として意義があると考えています。
今後の学校施設整備
現在、少子化に伴う統廃合や、小中一貫校、義務教育学校の整備など、新たに校舎を計画したり建設したりすることが進められています。しかし、ALに対応しやすい校舎を新築できる学校は限られており、多くの学校では既存校舎を活用しながらALを実施しています。ALを行う校舎が新築か既存かにかかわらず、目指すべき教育の目標は共通しています。したがって、既にある学校施設を活用し、そこでどのようにALを実施するかが、今、検討すべき重要な課題ではないでしょうか。本稿ではA市の事例を紹介しましたが、他の自治体においても、既存校舎でALに対応する建築的な方策が試みられています。ALの実施を支援するために、教育的な側面とともに検討していきたいと考えています。
1)2.育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び (3)個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実,文部科学省, https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/mext_01490.html)
2)文部科学省:学習指導要領 平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容を分かりやすく紹介平成29・30・31年改訂学習指導要領について知りたい どのように学ぶの?, https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm#section5)(参照日 2025.12.3)
3)古谷博子,李燕, 小松尚: 既存校舎におけるアクティブ・ラーニングを実施する部屋の選択的利用に関する研究, 日本建築学会計画系論文集, 第91 巻, 第840 号, pp. 278-289, 2026.2
4)古谷博子, 鈴木賢一:小学校の既存教室に導入したグループ用家具と授業展開に関する研究, 日本建築学会計画系論文集, 第88 巻, 第810 号, pp. 2261-2270, 2023.8
注1)築40年以上の面積が8,796万㎡あり、そのうち要改修面積が6,467万㎡であることから、要改修面積の割合を約74%と算出した。
注2)ここでは、ALを一斉講義による学習活動と一斉講義以外の学習活動の両方を指す。
建築プランニング・デザイングループ 古谷 博子
行政職員として建築指導課や教育委員会等での業務に携わった後、大学院へ進学。教育活動を支援する学校施設整備について研究を行い、理論と実践の両面から探究している。2026年4月より株式会社地域計画建築研究所に所属し、地域づくりの視点を取り入れながら学校施設整備に取り組んでいる。一級建築士・一級建築基準適合判定資格者。
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