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247号(2024年9月号)特集「手紙」

プロセスを楽しむための手紙


書簡体小説というジャンルがある。多くの場合、時系列に沿った往復書簡や複数の手紙の内容を通して、ストーリーや人物間の関係性、サスペンスであれば事件の輪郭から核心が浮き彫りになっていく。我々が携わる仕事にも通じるものがある。状況は常に変化していく中で、「何が重要か」「そのためにどうするべきか」を探る必要がある。地元の意向や様々な関係者の意向、各種法規制、立地や敷地の特性、地域の歴史、エリアの特性、連携の可能性などなど、様々な事柄を往還しながら核心に迫る。

 書簡体小説というジャンルがある。多くの場合、時系列に沿った往復書簡や複数の手紙の内容を通して、ストーリーや人物間の関係性、サスペンスであれば事件の輪郭から核心が浮き彫りになっていく。
 我々が携わる仕事にも通じるものがある。状況は常に変化していく中で、「何が重要か」「そのためにどうするべきか」を探る必要がある。地元の意向や様々な関係者の意向、各種法規制、立地や敷地の特性、地域の歴史、エリアの特性、連携の可能性などなど、様々な事柄を往還しながら核心に迫る。
 大きく異なる点は、書簡体小説の設計者は著者自身であるが、まちづくりには著者は不在であることだろう。また「次に読む手紙」もあらかじめ準備されていない。パンフレットや報告書にまとめられたまちづくりは、一つのストーリーに基づいて理路整然と進められてきたような印象を持つが、実態はその時その時で関係者が悩んだ積み重ねである。
 昨年から、幻の都と呼ばれる「恭仁宮跡」(木津川市)の活用検討に関わっている。墾田永年私財法が発布されるなど、稀有で固有なストーリーを有している。他方で、面積は約40ヘクタールであるが、公有地化は途上であり、認知度も低い。特殊な都構造のため、50年超の調査でも全貌は解明されていない。史跡指定されているが、史跡内では民家や農地が点在している。京都・奈良・大阪の都市部からアクセスが良いが、鉄道駅からは離れている。エリア周辺では道路整備や高速道路延伸などが進むが、恭仁宮周辺は狭隘道路も多い。そして何より恭仁宮周辺で暮らす人がいるとともに、地元自治体や京都府が関わり、行政内の関係課も多い(企画系、観光系、文化財系…)。実に様々な事象を勘案する必要がある。現時点では、コンテンツファーストで実験的な活用を行い、都度その効果を分析していきながら、活用の在り様を具体化していくような方法を構想している。
 書簡体小説を読むと、誰かに手紙を書きたいという読後感を持つことがある。1300年前から在り続けてきた恭仁宮が持つ様々な〝手紙〟に、自分もひとつ追加し、この先の人々にとって読みごたえがあり、返答したくなるようなものにしていきたいと思う。

地域再生デザイングループ 小川直史

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