レターズアルパック
Letters arpakたった1本の原木から村づくりの道を昇る
皆さんは、北山村という村をご存じでしょうか?「ああ、あの和歌山県の飛び地の村ね」、「日本で唯一の北山川観光筏下りをやっている村だね」。そうです、北山村は紀伊半島の南東部にある人口400人ほどの小さな村です。和歌山県ではありますが、村の周囲は奈良県と三重県です。その北山村の「じゃばら」を、ご存じの方も多いことでしょう。「花粉症」に効果がある成分を含んでいるということで、試してみた方もいるのではないでしょうか。
皆さんは、北山村という村をご存じでしょうか?「ああ、あの和歌山県の飛び地の村ね」、「日本で唯一の北山川観光筏下りをやっている村だね」。
そうです、北山村は紀伊半島の南東部にある人口400人ほどの小さな村です。和歌山県ではありますが、村の周囲は奈良県と三重県です。その北山村の「じゃばら」を、ご存じの方も多いことでしょう。「花粉症」に効果がある成分を含んでいるということで、試してみた方もいるのではないでしょうか。
2023年11月4日、晴天のもと、北山村新じゃばら加工施設の落成式が多くの来賓のご臨席の中行われました。私たちが最初に、このプロジェクトの計画と設計のために村を訪れたのは、平成29年(2017年)2月のことですからほぼ7年になります。
じゃばらは柑橘系の木で北山村が原産地とされています。江戸時代から庭先に植えられて、北山村では正月料理のさんま寿司や昆布巻に絞り汁を酢の代わりに使っていたそうです。1970年代、じゃばら栽培農家の訴えで村に残ったたった一本のじゃばらの原木を、柑橘類の分類で有名な田中諭一郎博士に調査を依頼したところ、新品種と判明、1979年に品種登録されました。それから村はじゃばらを特産品として村の活性化に取り組み始め、1987年に加工場を新設、じゃばらの加工品を村内で製造できるようになりましたが、思ったほど売れませんでした。村民の期待を背負ったじゃばらは存続の危機に瀕しました。
2001年背水の陣で始めたインターネット通販と、一か八かで始めた「じゃばらが花粉症に効くかどうかモニター募集」が大当たり、売上が1億円を突破するようになりました。やがて、じゃばら抽出物に強い脱顆粒抑制作用(アレルギーを抑制する作用)があることが判明し、それがじゃばらに多く含まれる「ナリルチン」によるものと突き止められました。以来、じゃばらの商品アイテムも増え、じゃばらの生産が追いつかなくなる事態も発生するほどでした。
村は計画的に作付面積の拡大を図り、現在は年間120トンのじゃばらを収穫するようになって、さらに拡大をめざしています。じゃばらは接ぎ木で増やしていくのですが、北山村は山間地で自然条件が厳しいことから、成長に時間がかかるのだそうです。しかし、そうしてじっくり育っていくからこそ、強い酸味や心地よい苦みが醸成されるのかもしれません。
このように、じゃばらは時間をかけて過疎地といわれる北山村を支える大きな産業の一つに育ってきました。全国には、このような過疎地や中山間地と呼ばれる地域が数多くあります。その面積はわが国の多くを占めていますが、一部では荒廃が進みつつあります。しかし、人口減少や高齢化が進むこれらの地域は、大きな人口を抱える大都市地域の空気や水を涵養しているのであり、北山村のような地域やそこに暮らす住民の生活が、これからも生き生きと続いていくことが、我が国全体にとって重要な課題であると私たちは考えています。過疎地や中山間地の地域づくりは、重要な都市問題でもあるのです。
新じゃばら加工施設の完成は、この村の中でじゃばらの生産、加工、販売が一貫性をもって六次産業化され、北山村の活性化を目指す大きな拠点となると考えています。
こうした活動の中心を担うために組織された「株式会社じゃばらいず」には、多くの若者が集まってきています。事業所も村外に3カ所設立しました。
雇用の場の拡大による若い世代の活躍と定住促進は、北山村の活性化には欠かせないものです。その意味でも、この新じゃばら加工施設の完成は村にとって大きな意味があり、そのお手伝いができたことは私たちの大きな喜びでもあります。
足掛け7年通い続けた道は、実は隣接する下北山村(奈良県)に30年近く通い続けている道でもあります。道はどんどん良くなり、沿道の景観も変化していきますが、北山村の道では年々じゃばらの木が増え、少しずつではありますが栽培面積が拡大していることを実感しています。いつも青々としたじゃばらの木ですが、小さな白い花を咲かせ、やがて緑色の実がなり、黄色く熟していくじゃばらの景観を観るのも、北山村に通う大きな楽しみになりました。
たった1本の自生のじゃばらの木から始まった北山村の村づくりの取組が、大きな加工施設の完成により新たなステップに向かって昇ろうとしています。この施設が、次代を担う若者たちと一緒になってその目的を果たしていくことを切に願っています。
建築プランニング・デザイングループ 高坂憲治
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