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235号(2022年9月号)特集「本」

不易流行


今年、私が生まれ育った街の図書館について、今後の在り方を検討する業務を受託しました。業務をきっかけに、十数年ぶりに図書館に行ってみると、昔と変わらない姿の建物と書架とこぢんまりとした椅子があり、一瞬で、通っていた当時の記憶が蘇りました。

 今年、私が生まれ育った街の図書館について、今後の在り方を検討する業務を受託しました。業務をきっかけに、十数年ぶりに図書館に行ってみると、昔と変わらない姿の建物と書架とこぢんまりとした椅子があり、一瞬で、通っていた当時の記憶が蘇りました。
 小学生の頃は、毎週土曜日、図書館に通い、子どもらしく、怪談話やおまじない等の本も読んでいましたが、特に、遠い昔の遠い国の物語を好んで読んでいました。いま思うと、幼いなりに、自分のまわりの小さな世界を出て、知らないところに行ってみたかったのだと思います。
 中学生になると、時々、仲のよい友人と一緒に図書館に行っては、少し背伸びをしてファッション雑誌を読み、早く大人になりたいなあと将来を見つめ、ひそひそとおしゃべりをしていました。
 高校生になると、図書館に行く機会もぐっと減りましたが、たまにふらっと立ち寄り、土木・建築の書架の前に立ち、様々な本を眺め、自分の進路について考えあぐねていました。
 こう振り返ってみると、私にとって、本を読むことは、好きな作家の世界に浸るでもなく、年齢や環境とともに変化し新たに生まれる探求心や好奇心を満たすでもなく、ここではないどこかに行きたい、自分ではない誰かになりたい、と渇望する自分と向き合うための行為であったように思います。そして、図書館は、静かに徹底的に自分と見つめ合うことができる、数少ない場所であったと感じます。
 これからの図書館は、人口減少等に伴い公共施設の廃止や集約等が検討される中、読書離れやデジタル化等も進み、新しい姿が求められています。商業施設やカフェの併設、市民活動や交流の場としての機能の複合化、集客イベントによるにぎわい創出等どれも、これからの図書館に必要なことですが、やはり、図書館らしく、静寂の中で孤高の時間を過ごす場所であり続けることも必要だと、私は思います。
 生まれ育った街の図書館が、今後どのような姿になるかまだわかりませんが、新しい中にも、変わらないものが残っていてほしいと、願っています。

地域再生デザイングループ 山本貴子

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