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235号(2022年9月号)特集「本」

本の贈り物


本にまつわるエピソードとしては、高校を卒業する時に恩師から新書を頂きました。大学受験がうまくいかず、浪人することが決まって、春休み中の学校の職員室を訪れた際に、高校2年時の担任の先生から、読んでみるといいよ、と勧められました。新書のタイトルは『科学の現在を問う』(村上陽一郎著)。

 本にまつわるエピソードとしては、高校を卒業する時に恩師から新書を頂きました。大学受験がうまくいかず、浪人することが決まって、春休み中の学校の職員室を訪れた際に、高校2年時の担任の先生から、読んでみるといいよ、と勧められました。新書のタイトルは『科学の現在を問う』(村上陽一郎著)。恩師は、社会の先生で、授業では地理と世界史を教わりました。高校時代は、理系科目よりむしろ世界史の授業が面白くて、高校時代に学んだ基礎知識が、今でも世界情勢を知る上で、ベースになっています。大学受験は、理系を選択しましたが、これからもう一度受験を頑張って大学に進み、専門分野を学んでいくにあたって、科学と社会についても意識しておきなさいという先を見据えた励ましの贈り物だったのかなと今思い返しています。
 さて、恩師から頂いた新書ですが、本の帯にあるように、原発、先端医療、情報化がもたらす弊害から理科教育の問題点まで、科学と技術の発展は、人間を幸福にしたか?についての問いを投げかけています。発刊は2000年で現在から20年以上経過しており、この間にスマートフォン、LEDなどの普及、iPS細胞の研究、AI技術の発展、新型コロナウイルス感染症のパンデミックなど社会を一変させる様々な出来事がありましたが、久しぶりに本書を開いてみても、考えさせられる内容が沢山ありました。特に科学・技術と倫理については、(まだまだ勉強中ではありますが)建築・都市・まちづくりに関わる一人として、倫理観、社会的責任を常に持っていなければならないと改めて思いました。
 本というのは不思議なもので、新書を先生から頂いた場面やその前後の記憶を何となく覚えていますが、あれから年月が経って、同じ文章を読んでいるはずなのに、考えることが違ってきます。なるほど、本を贈るということは、その瞬間の想いや伝えたいメッセージに加えて、未来の相手にも贈っているんだなと思いました。私も機会がある時には、本の贈り物をしたいと思います。

建築プランニング・デザイングループ 杉本健太朗

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