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233号(2022年5月号)今、こんな仕事をしています

街のコモンズの再生 ~大阪都心の賃貸集合住宅プロジェクトから見えてきたこと~


大阪都心の下町である寺田町の賃貸集合住宅(寺田町プレイス1)プロジェクトでは、「15分生活圏の小さなコモンズ」を再生し、人と街を繋ぐスペースをプレイスに変えていくプロセスを所内外の様々な専門家とコラボレーションしながらデザインしました。

 大阪都心の下町である寺田町の賃貸集合住宅(寺田町プレイス1)プロジェクトでは、「15分生活圏の小さなコモンズ」を再生し、人と街を繋ぐスペースをプレイスに変えていくプロセスを所内外の様々な専門家とコラボレーションしながらデザインしました。
 私達は、経済成長と共に都市空間や建築を、経済性、合理性、管理のしやすさ、責任の明確化などから、官民の境界を明確に分離してきました。そしてその結果、私達の暮らしは豊かになったのでしょうか?
 忘れ去られてきた「コモンズ」を街に取り戻さないと、日々の暮らしが豊かにならないし、人と人との出会いからしか新しいアイデアや小さな営み、さらに創造都市や地域文化は生まれない事に私達は気づき始めたのだと思います。「人中心のまちづくり」って大上段に構えるのではなく、「15分生活圏に小さなコモンを取り戻していく市民活動」の積み重ねが、人と街を繋ぐスペースをプレイスに変えていく原点だと考えました。

地権者の高齢化に伴う街の変化
 戦後約80年を経て、大阪市戦災復興土地区画整理により換地された多くの約100坪の宅地は相続の時を迎えています。JR大阪環状線寺田町界隈は、住居系地域ですが、第2種住居地域で指定容積率が400パーセントという日本でも特殊な地区で日影規制が緩和されており、最近、民間事業者に売却された敷地では、総合設計制度の活用により14階建てのマンションが乱立する景観が形成されつつあります。
 今回のプロジェクトでは、住・働・遊が複合した都心生活地における「上質な普通の暮らし」はいかにあるべきか、街のコモンズとして賃貸マンションはどのような場を創造できるのかを、オーナー、設計者、施工者、居住者、店舗事業者、施設利用者などの関係者で熟議し、小さな実験を繰り返しながらデザインを実践していきました。
 特に、 寺田町プレイス1では、地域での生活者の視点で、地に足ついた「地域経済」「地域社会」「地域環境」をバランスさせた「持続可能な暮らし」はどうあるべきかを議論し、プロトタイプとなる持続可能な地域づくりに寄与するデザインを生み出しています。

賃貸集合住宅 寺田町プレイス1(撮影:笹倉洋平)

賃貸集合住宅 寺田町プレイス1(撮影:笹倉洋平)

難波京の羅城門のレガシー継承
 対象地は、古くは難波京の朱雀大通に位置し、日本書記に記された羅城門があった都の玄関口という歴史的な物語を有していました。都の南の玄関口として、国内外からの若い人々を引きつけ、集い、住み、暮らす。そんな「街の登竜門」になればと企画が進みました。
 プロジェクトを企画・設計・運営していく上で、以下の5つの基本方針を定めました。(1)持続可能な暮らし:建設費を抑えアフォーダブルな家賃でシンプルな暮らしを実現する。(2)高いエネルギー効率:風の道、壁面緑化、屋上ソーラーパネル(設置調査中)等による高いエネルギー効率を実現する。(3)グランドレベルでの賑わい:日常的な憩い、交流、生活サービスの提供による地域コミュニティの場づくりをめざす。(4)持続可能なモビリティ:車の駐車場を作らず、公共交通・自転車による15分生活圏を実現する。⑤地域性の継承:難波の宮の南の玄関口として、国内外から大阪でチャレンジする「街の登竜門」としての居住・店舗を共に創る。

エレベーターホールの夜景(撮影:笹倉洋平)

エレベーターホールの夜景(撮影:笹倉洋平)

寺田町街角(ミニ)マルシェ

寺田町街角(ミニ)マルシェ

持続可能な「上質な普通の暮らし」
 オーナーは、寺田町界隈に複数の不動産を所有されており、現在、次世代に継承する不動産運用とエリアブランド創造に向けて、「1」から「2」「3」へと順次、事業を展開し、地域エリア全体に今回の基本方針が様々な形で波及していくよう願っています。
(関連記事:レターズ223号「大阪都心の上質な下町における「実験店舗」から見えてくる新しいコミュニティ」、レターズ229号「持続可能な地域づくりに貢献する賃貸住宅プロジェクトを進めています」レターズ232号「おおさか都市木循環プロジェクトを組成、大阪のまちに〝顔の見える地域木材〟を」)
※本プロジェクトは、アルパックの建築プランニングデザイングループ(山崎、塗師木)、サスティナビリティマネジメントグループ(畑中、中川、豊福、駒)と、LEM空間工房、(株)グリーンチーム、(一社)大阪府木材連合会、(株)南河内林業、(有)田中製材所、場とコトLAB、sumikov、(株)大室組、まこと建設(株)等との連携・協力により実践しました。

「寺田町プレイス1」プロジェクトチーム 中塚 一

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