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232号(2022年3月)まちかど

トイレだってりっぱな観光資源


1981年に大学のゼミ企画の中国ツアーに参加した。当時は、みんな人民服で厳しい観光規制がしかれ自由に行動することや写真撮影もできなかった。

 1981年に大学のゼミ企画の中国ツアーに参加した。当時は、みんな人民服で厳しい観光規制がしかれ自由に行動することや写真撮影もできなかった。
 初めて触れる異国の文化はすべてが刺激的で、特に街中にある公衆トイレに衝撃をうけた。煉瓦づくりの建物は、男女に分かれているが、中は仕切り壁がなく溝があるだけ。みんな一列に並んで用を足すというものだった。授業で知っていた猪厠(トイレの下に豚小屋がある落下式トイレ)に遭遇しなかったのは残念だったが、旅行中の私の関心事は、トイレに集中したことはいうまでもない。例えば、広大な天安門広場を誇らしげに説明するガイドに「大人数の人が集まるときにトイレはどうするのか」と質問するといった具合に。答えは広場の下に鉄板付きの溝があり周囲に壁の囲いをしたら即座にトイレになるものだった。以来、海外に行くと必ずトイレをチェックするが、当時ほどの衝撃はない。
 さて、話題は変わるが、昨年東京にいった際、友人に渋谷区に公共トイレを活用した面白いプロジェクトがあるので、ぜひ見るべきと案内された。プロジェクト(THE TOKYO TOILET)は、区内の17箇所の公共トイレを生まれ変わらせるもので、安藤忠雄、隈研吾、佐藤可士和、坂茂などのクリエイターの作品がある。

鍋島松濤公園(隈研吾)

鍋島松濤公園(隈研吾)

神宮道公園(安藤忠雄)

神宮道公園(安藤忠雄)


 私たちが何気なく使っているトイレは、海外の旅行者にとってハイテクだけでなく清潔できれいと評価は高い。プロジェクトはそんなものではなかった。個性あふれる意表をつく斬新なデザインは、まちをアート空間に変貌させる。公園の緑と調和する素材やRC打ちっぱなしのクールな曲線、スタイリッシュな照明デザイン、かわいいピクトサイン、わくわく感はマックス状態になる。そして、土地勘が全くない場所で限られた時間内に観光しながら、効率よくトイレを目指すという意欲にかられる。時間枠と地図にパズルを埋め込んでいくような面白さがある。特にくらがりの中に浮かび上がるライトアップされたトイレは、見事な演出で、夜間にわざわざ行く価値がある。トイレだって立派な観光資源でまちづくりに一役買っていると感心させられた。プロジェクトは、現在も進行中で2022年には全部完成する予定だ。コロナが終息すれば、残りのトイレを再訪するつもりである。

佐藤可士和デザインのピクトサイン(全作品共通)

佐藤可士和デザインのピクトサイン(全作品共通)

透明トイレ(坂茂)

透明トイレ(坂茂)

透明トイレ(坂茂):入室後は内部が見えない

透明トイレ(坂茂):入室後は内部が見えない


 余談であるが、京都の円山公園(設計 武田五一)には、五一の作品の一つといわれるトイレが現存している。探してみてはいかが。

円山公園内のトイレ

円山公園内のトイレ

企画政策推進室 中村孝子

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