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227号(2021月5月号)メディアウオッチ

書籍紹介『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』( 松本創著 新潮文庫)


JR福知山線脱線事故の発生 2005年4月25日(月)朝、私は打合せのため、午前9時には京都事務所に到着し会議中でしたが、大阪事務所より馬場さんは無事でおられますかとの連絡が入った。JR福知山線で通勤しているので、何か事故があって巻き込まれてないかの確認であった。その後、当社の一人が巻き込まれていたようで、携帯で無事だとの知らせのあと連絡が途絶えた。午後、大阪事務所に戻り詳細が分かってきた。とんでもない事故のようで、いつもの“あのカーブ”での事故であった。

JR福知山線脱線事故の発生
 2005年4月25日(月)朝、私は打合せのため、午前9時には京都事務所に到着し会議中でしたが、大阪事務所より馬場さんは無事でおられますかとの連絡が入った。JR福知山線で通勤しているので、何か事故があって巻き込まれてないかの確認であった。その後、当社の一人が巻き込まれていたようで、携帯で無事だとの知らせのあと連絡が途絶えた。午後、大阪事務所に戻り詳細が分かってきた。とんでもない事故のようで、いつもの“あのカーブ”での事故であった。
 その日は、夕方にアルパックOBの淺野弥三一さんの事務所から見積書を取りに来られる予定で待っていたが一向に来られない。何時もは淺野さんの奥様が来られるのだが、遅くに綱本さんが来られた。今日、奥様は朝から出かけられて消息がつかめないとのことで、ひょっとしたらJR福知山線脱線事故に合われたかもしれないとのことだった。
 その後、淺野さんの奥様と次女と実の妹さんがこの事故に巻き込まれていて、奥様と妹さんが亡くなられたことを知った。28日、宝塚の松林寺での奥様の通夜での、淺野さんの信じられないとの悲憤の挨拶と、気丈だけれども憔悴した姿に、悲痛な思いが悲しみとともに重く伝わった。


不条理に立ち向かう闘い
 ‘軌道’は、この通夜から始まる。この事故を起こしたJR西日本会長の南谷昌二郎が、通夜が始まる前に「このたびは誠に申し訳ございませんでした」と頭を下げ、続いて「今後また補償の話もありますので」に、「あんた、今何を言うた。もういっぺん言うてみい」。口では全責任が当社にあるといい、その実、被害者に与えた損失や苦しみや窮状を一つも理解しようとしない、自社の論理や組織防衛を優先する。このことの「不条理だ」に立ち向かい、「なぜこの事故はおこったのか」を追求する闘い。JR西日本を変えていく長い経過を、元神戸新聞記者のジャーナリスト松本創氏が、取材者として客観的に、事故の全体像を広く深く俯瞰して描き出すというよりも、いわば淺野弥三一氏というフィルターを通して、「事故」というものに関するさまざまな動きと向き合ってきた渾身のルポタージュである。
 淺野さんのこの闘いから、現在に生きる私たち都市計画技術者の矜持を学ばなければならないと思った。「なぜ」、「科学的」「論理性」「大きなものにも真摯に立ち向かう度量」「あきらめない」「使命感」「柔軟な」「目標の模索」によって、不条理を見抜き、問題解決を導く。その技術者としての態度、それを支える普段からの広い関係性の環境を備えているか。著者の松本創氏は、立ち向かう淺野さんの、その背景をアルパックでの仕事も含め、詳細に紹介し記述している。

出版報告会
 この‘軌道’は2018年3月に上梓し、6月に出版報告会が尼崎市内で開かれ、縁あって参加した。出版報告と淺野さんの長年にわたる労をねぎらう会でもあった。驚いたのは、ご本人や関係者とともにJR側の元支社長や安全担当者が席を同じくして集まっていたこと。事故が社会化される過程で、JRも改革を成し遂げたと言うことか。閉会にあったって、浅野さんが一つの区切りとして、奥様へ約束を果たせたことを報告したいとの言葉で締められた。
 今回の文庫本発行の間に、新幹線でのインシデントなどがあり、安全への取り組みが、仕組みやマニュアルとして整備されても、仕事を担当する者の徹底した意識が発揮されなければならない永遠の取り組みであることを痛感する。最後に、奥様はじめこの事故で亡くなられた方々のご冥福をあらためてお祈りいたします。

顧問・主席研究監 馬場正哲

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