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227号(2021月5月号)特集「風 KAZE」

風に吹かれて


建築の設計に携る私がこんなことを言ってしまうと身も蓋もないと言われそうですが、私は自分自身が住む家にほとんどこだわりがありません(誤解の無いように言っておきますが、自分以外の人にとっての建築は別です)。そもそも、私はどこでも眠ることができ、歩きながらでも食べることができる人なので、一定の場所に留まることをあまり欲していないのかもしれません。

 建築の設計に携る私がこんなことを言ってしまうと身も蓋もないと言われそうですが、私は自分自身が住む家にほとんどこだわりがありません(誤解の無いように言っておきますが、自分以外の人にとっての建築は別です)。そもそも、私はどこでも眠ることができ、歩きながらでも食べることができる人なので、一定の場所に留まることをあまり欲していないのかもしれません。
  そんな私は数年前から夏か秋にテントを担いで北アルプスの穂高連峰に登っています(昨年はコロナの影響で断念しましたが)。上高地から徳沢、横尾を経由して涸沢カールへ向かい、そこをベースに奥穂、北穂に登るルートで、上高地から横尾まではほぼ平坦な道を梓川に沿って林の中を進みます。ですので、横尾までは観光客やハイカーの姿も多く見られます。横尾から先は登山道に入り、日ごろの運動不足と重いザックがたたり、私には結構きつい山行です。涸沢カールでテント泊、運が良ければ満天の星空の下で眠り、朝には穂高連山を赤く染め上げるモルゲンロートをすぐ目の前で見ることができます。そして、いよいよ目標のピークを目指します。
 山に登る醍醐味は、なんと言っても山頂に辿り着いた時の達成感とそこに現れる景色の素晴らしさです。山が高ければ高いほどその達成感は大きく、今まで見た素晴らしい景色を更に上書きしてくれます。ただ、山の天気は気まぐれで、3回に2回ぐらいは山頂はガスに包まれ、周りの景色は真っ白となり、ひどい時にはその場が山頂であることすらわからないぐらいで、「そこにははただ風が吹いているだけ」(少し古いかな)といった状況になります。
 真っ白なガスに包まれた山頂で一人「風に吹かれて」(ますます古いですね)いると、すごく自分の無と実存の両面を肌で感じることができます。今まで数多くの音楽や小説の作者が「風」という言葉に託そうとした思いが少しわかるような気がします。

建築プランニング・デザイングループ 原田稔

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