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226号(2021年3月号)特集「萌え」

萌黄匂の鎧着て


平家物語と言えば、冒頭の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす…」は有名ですが、「萌」と聞くと、「敦盛最期」の場面を思い出します。

 平家物語と言えば、冒頭の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす…」は有名ですが、「萌」と聞くと、「敦盛最期」の場面を思い出します。
 萌黄匂の鎧を着た平敦盛が、海へ逃れようとするところを源氏方の武将、熊谷直実に呼び止められ、討たれるエピソードです。直実は、息子ほどの年齢に見える敦盛を泣く泣く討った後、腰の笛に気付き、明け方の管弦の音は、敦盛たちであったと分かり涙したという悲しい場面が描かれています。
 萌黄色について調べてみると、春先に草や木の葉の萌え出る緑の色といわれ、若さを象徴する色のようです。船上の「扇の的」を見事に射落とした那須与一も萌黄縅の鎧を着ていました。平家物語では、萌黄色の鎧を着た若武者二人が、一方は笛を奏でる悲劇の美少年として描かれ、もう一方は無名で小兵の若者が義経の前で見事に大役を果たすという何とも考えさせられる対照的な表現となっています。
 さて、私は、この草木の葉の萌え出るような緑色が好きですが、「萌黄」をキーワードに調べてみると、「萌黄の館」という建物が北野(神戸市)にありましたので、訪ねてみました。

萌黄の館 外観

萌黄の館 外観

 萌黄の館は、1903年にアメリカ総領事ハンター・シャープ氏の邸宅として建てられ、1980年に国の重要文化財に指定されています。木造2階建で、1987年からの修理で下見板張りの外壁は建設当時の淡いグリーン色に復元され、公募により現在の「萌黄の館」の名称になったそうです。中に入ってみると、廊下や部屋の壁のあちこちが淡いグリーン色で塗られており、木造の洋館の雰囲気そのままで、近代の映画やドラマに出てきそうでした。

萌黄の館 内観(1階 食堂)

萌黄の館 内観(1階 食堂)

 (この原稿を執筆している時点では)だんだん春が近づいていますが、ふと道端に目を向けると、草木も萌黄色に芽吹き始めています。これから私の好きなこの萌黄色が、各所で見られる季節が楽しみです。

道端で見かけた田起こし前の田んぼに咲く菜の花

道端で見かけた田起こし前の田んぼに咲く菜の花

建築プランニング・デザイングループ  杉本健太朗

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