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224号(2020年11月)特集「あそび」

鉄道と都市のあそびを考える


かつて兵庫県尼崎市に尼崎港線と呼ばれる旧国鉄福知山線の支線がありました。塚口駅から廃駅になった尼崎港駅までを結ぶ4.6キロメートルの短い路線です。1981年の旅客運行を終える直前には1日2往復しか運行しておらず、すでに旅客輸送の役割は終えていました。

 かつて兵庫県尼崎市に尼崎港線と呼ばれる旧国鉄福知山線の支線がありました。塚口駅から廃駅になった尼崎港駅までを結ぶ4.6キロメートルの短い路線です。
 1981年の旅客運行を終える直前には1日2往復しか運行しておらず、すでに旅客輸送の役割は終えていました。都市部の路線にもかかわらずローカル線の雰囲気を感じることができたため、私のような鉄道ファンにとっては面白い存在でした。
 尼崎港線に限らず、民営化以前の国鉄には日本全国にこのような乗客が少ないローカル線がたくさんありました。鉄道にも余裕という意味でのあそびがまだ残っており、それを鉄道ファンが乗りに行っては楽しませてもらっていたわけです。
 その後、国鉄は民営化され赤字ローカル線が切り捨てられていきましたが、最近ではクルーズトレインをはじめとする観光列車が各地で増えてきました。移動の手段として利用されてきた鉄道ですが、観光ニーズが多様化する中で、移動だけでなく積極的に楽しむための機能を盛り込むことで、新たな使い方が見いだされた例と言えます。
 移動の手段としての素の鉄道を楽しんでいた私にとっては少し複雑な心境ですが、あそびがなくなってきたと思っていた鉄道に、違う形でもあそびが復活してきたことは喜ぶべきことかもしれません。
 都市も拡大、過密が進み、空間的なあそびは少なくなりましたが、今後、人口減少に伴って縮小に向かい、またあそびが増えてくることが予想されています。都市計画のプランナーとしては「何か活用しなければ、埋めなければ」と考えてしまいますが、少し力を抜いて新たなニーズが出てくるまで待つというのも一つの方法ではないかと思っています。

石川聡史:都市・地域プランニンググループ

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