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217号(2019年9月号)その他

アルパックスピリッツ「京都駅ビル」


「日本では、国際コンペの経験が少なかった中で京都駅ビルの国際設計コンペがスタートした」

「日本では、国際コンペの経験が少なかった中で京都駅ビルの国際設計コンペがスタートした」
 今年、京都駅ビルが1997年にグランドオープンして満22年を迎えます。構想提案から事業主体設立、基本計画、国際コンペ、実施設計、工事発注着工までわずか6年2ヶ月で成し遂げられました。
 京都商工会議所から協力要請を頂いたのは1988年。三輪は国際設計コンペのプロフェッショナルアドバイザー(以下「PA」)に任命されました。PAの身分と権限の根拠はユネスコの国際コンぺ規準です。PAの責務は、自由に、フェアーに議論ができるよう、よそから邪魔が入らないようにする、管理と保安とのこと。ユネスコの国際コンペ規準は国連総会で議決され、各国へ勧告された国際条約です。三輪は、国際建築家連盟を訪問してユネスコ規準を猛勉強し、その仕事はPAの職務職責の確認から、UIA・JIAなどの関係機関との協議、要綱の作成や国際的な実績のある審査委員の編成、審査会の運営・進行管理など多岐に渡りました。
 日本では同時期に、関西国際空港ターミナルビル、東京国際フォーラムが国際設計コンペで行われました。日本で、その後も国際コンペが行われていますが、国内法の整備や人材育成はまだまだだと思います。

「大規模プロジェクトに携わることは技術力を高め、少々のことでは動揺しなくなる。スポーツでも芸術・芸能でも同じである。そういった大舞台を用意するのは、誰か?」
 事業推進のため、先ずフローチャートを作成し、基本理念と事業手順について関係者の合意を得、次に機能・規模・手法等を検討する委員会の設置を願い出たそうです。計画を推進するのがプランナーという職能人の職務。駅ビルのプロジェクトには、特定街区、区画整理、都市計画街路、駅前広場の4つの都市計画手法が駆使されています。
 まさに時間との競争で取り組まれたプロジェクトの経験は、その後担当する様々なプロジェクトを遂行する上で大きな糧と力になったそうです。京都駅ビルのプロジェクトは非常に大きなプロジェクトで、業務計画フローを見ても様々な要素が絡み合っており、技術力はもちろん、マネジメント力や胆力も非常に重要だと感じました。聞いているだけで胃が痛いなあ、と思っていた私はまだまだ未熟だと感じました。(笑)

「研究者とコンサルタント、両者に共通するのは「事実」に立ち「真実」を追求すること」
 建設当初、景観論争が起こった京都駅ビル。アルパックの創始者西山夘三先生は、駅ビルの高層化に反対されていました。先生とは、関西学研都市構想も駅ビルも、関わるかどうかから話しをしていたとのことでした。「計画」の論理と「研究」の論理は一致しない、「計画」とは営業、即ちビジネスのこと、駅ビル開発もJR西日本も、そして、アルパックもビジネスの論理、即ち、収入・支出の原理に従っており研究者とは違う、真理の追究を使命とする研究者も命がけ、事業を推進するコンサルタントも命がけの闘いである、といった話が印象的でした。:竹内


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 現地では京都駅ビル開発(株)の髙浦敬之さんに駅ビルのご説明、ご案内をいただきました。以下は、髙浦さんのお話しをご紹介します。

「空調システムの更新でエネルギー使用量を熱源で60パーセント削減」 
 今日ではパリ協定が気候変動対策の国際的な枠組みとして大きな役割を果たしていますが、以前はその役割を地球温暖化防止京都会議(COP3)で採択された京都議定書が果たしていました。京都会議が開かれた年に駅ビルは、オープンしています。年間約4万8千トン(京都市全体の約0.8パーセント)の二酸化炭素を排出し、建物では1位でした。
 駅ビルで使うエネルギーの約半分は空調によるもので、京都駅ビル開発(株)では、1度目の空調の設備更新の際に、エネルギー使用量を熱源で60パーセント、ビル全体でも30パーセント削減しました。単なる老朽化による取り換えではなく、環境問題に対する意識が高まる社会の流れを読み取って大胆な設備更新を行ったそうです。京都駅ビル開発の熱源改修プロジェクトは、省エネ大賞経済産業大臣賞他を受賞しています。


「雨水と地下湧水を利用して京都の原風景を再現」
 環境負荷低減への積極的な貢献として、駅ビルの屋上に降った雨と地下湧水を貯水タンクにため、階段状に並べたプランターに流下させる「緑水歩廊」があります。「緑水歩廊」は京都の原風景を再現しているとのこと。地下湧水のくみ上げには太陽光発電の電力を利用しており、自然の力と再エネのみで水の循環を実現しています。
 また、髙浦さんの野望(!)には、京都駅前の再開発のチャンスを捉えて、琵琶湖疏水を源とする本願寺水道を京都駅の駅前広場まで延伸し、平時は水と緑豊かな京都の玄関、災害時には多くの外国人を含む帰宅困難者受け入れの防災拠点として整備する構想があるようです。
 髙浦さんは京都駅ビルを100年持たせたいとのこと。今後もより重要になる温暖化対策や防災等の課題に対して、柔軟に対策をしていく京都駅ビルがどのように変わっていくのか、2097年にはどんな姿になっているのか、楽しみです。見ることはできないですが(笑):伊藤

[arpakと京都駅ビル]

[arpakと京都駅ビル]
1994年の平安遷都1200年記念事業の一環として計画された京都駅ビル。4代目にあたる現在の駅舎は、国際指名コンペ方式で設計されました。アルパックは、コンペのプロフェッショナルアドバイザー、事務局として、応募者、審査員とのやりとりなどの他、駅前広場の設計を行いました。


※アルパック歴の浅い職員が、アルパックのエポックとなったプロジェクトの現場を創始者の三輪泰司と共に訪れてアルパック・スピリッツに触れ、その一端を三輪自身の言葉とともにみなさんにご紹介します。

伊藤栄俊・竹内和巳

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