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215号(2019年5月号)きんきょう&イベントのお知らせ

旅のもてなし方~文化財のポリシーとアクション


“文化財”と言うと難しそうですが、元々は、私達の身近で、愉しいモノやコトなはずです。

 “文化財”と言うと難しそうですが、元々は、私達の身近で、愉しいモノやコトなはずです。

先ず“文化財”を守る~誇りという財産
 4月8日、学士会館での日本ナショナルトラスト(JNT)の創立50周年記念式典で、創設当初からの「永久会員」を代表して感謝状を頂きました。JNTは1968年(昭和43年)12月25日、イギリスのナショナル・トラストに倣って設立されました。当初は、「財団法人観光資源保護財団」と称していました。
 戦後、日本国民にとって大きなショックは、法隆寺金堂壁画の焼失。1949年1月26日でした。輿論が巻き起こり、議員立法で「文化財保護法」制定。1950年8月29日に施行されました。因みに9月20日には、京都市民は、京都だけに適用される「京都国際文化観光都市建設法」を住民投票で制定しています。戦後5年、まだ連合軍占領下で、日々の糧にも餓えていましたが「文化」に誇りを託したのです。この「文化財保護法」は、包括的・総合的且つ体系的で、世界に冠たる法律です。

時代相を読もう~それは闘いである
 人間がやること、何事にも、光と影があります。1960年代に入ると、経済成長で、暮らしは良くなりましたが、自然や文化の破壊も起りました。明日香村は大阪の通勤圏に入り、住宅開発が押し寄せてきました。京都では双ヶ岡で、宅地開発騒動が起こり、国会でも問題になりました。急速で大規模な改変への対処が課題でした。
 1966年、議員立法で「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」いわゆる「古都保存法」が成立しました。明日香村は全村、保存地区に指定され、国営飛鳥歴史公園が造られました。
 税金には限りがあり、間に合わないこともあります。1964年、鎌倉で、鶴岡八幡宮の裏山、御谷に宅地造成計画が持ち上がり、作家・大佛次郎さんはじめ市民が立ち上がり「財団法人鎌倉風致保存会」を結成し、お金を集め、1.5haの土地を買収しました。1974年、和歌山・田辺の県立自然公園地域の天神崎で、別荘地開発に対して市民が「天神崎の自然を大切にする会」を結成し、計画地を買い取りました。これらは、日本版ナショナル・トラストの始まりと言われています。

新しい光と影~国民のチェックを受けるべし
 イギリスでは、19世紀中頃、貴族が税金対策で資産を売り、多くのカントリー・ハウスが壊されました。ジェントリの運動で、1895年にナショナル・トラスト(NT)が創設されました。ピーター・ラビットの原作者・ビアトリクス・ポターが寄託したヒル・トップや、元首相・ウインストン・チャーチルの邸宅チャートウェル・ハウスも維持運営しています。1907年にナショナル・トラスト法が出来、今や、会員450万人、1万余の職員を擁し、800miの海岸、248,000haの土地、500以上の城館・モニュメント等を所有しています。法制が整うと、「大事業化」の弊害が起ります。英国政府は、1983年、イングリッシュ・ヘリテージ(EH)を設立しました。公的機関です。有名なストーンへンジも管理しています。

都市づくりとともに~小集団のアソシエイツ  
 アメリカは内務省国立公園局組織法が始まりです。国立公園局(NPS)は、1872年、世界初のイエローストーンをはじめ、59の国立公園を含む、約400のユニットという小単位の集合である国立公園システムを管理しています。特徴は、独立革命の戦跡も所管していることです。ワシントンのリンカーン記念堂とその前のプールも管理しています。1950・60年代、アメリカでは富裕層が郊外へ移り、都市の空洞化が進んでいました。都市計画屋にとって都市再開発の情報はエキサイテイングでした。スラムクリアランスです。結果、都市に刻まれていた歴史的文化資産が失われていきます。市民が運動を起こし、1966年、連邦政府は、国家歴史保存法を制定し、国家歴史登録財制度(HRHP)で、NPS管理の文化財を含め、100万以上が登録されました。

「文化」を引き寄せよう~愉しく、面白く
 明日香村はどうでしょうか。立派な国営公園が出来ても人口は減っています。古都保存策だけでは住民の暮らしや商売までカバーできない。2018年7月の改正文化財保護法に注目します。“「総合計画」・「文化財保存地域計画」”の“総合”がクセモノです。
 “文化財を活かす”のは、ストレートなゼニ儲けだけではないと思います。昔から身近な小さいコミュニティーで、生活や経営を支援し、学習するシカケがありました。祭りや踊りなどで伝えてきました。明日香村には、飛鳥坐神社のお祭。愉快な奇祭、御田植神事(おんだ祭)もあるではないですか。文化財保護法にも明日香村のホームページにも書けないでしょうが。
 地域資源を守り生かし、なりわいと地域自治のワザとチエを鍛える「演習」です。役人や学者に掛かると、万事、難しくなります。日本ナショナル・トラストで言えば、北白川伊織町の駒井邸、明日香村では、小学校、みんな地域のコミュニティセンターにしては。文化を身近に引き寄せましょう。京都府庁旧本館利活用も小さな奉仕活動の「総合」です。応援ネットの会議は、企画から評価までし、すごいアーチストも生まれてきます。

看板の赤いマークはイングリッシュ・ヘリテージのマーク

名誉会長/三輪泰司

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