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213号(2019年1月号(新年号))その他

オープンハウスロンドン2018と最近の「バルセロナ・モデル」~バルセロナ編


前号で紹介したロンドンから続いてバルセロナを訪問しました。現地では、昨年の8月末より在外研究中の龍谷大学の阿部大輔先生に、旧市街地と新市街地における都市再生の様々なプロジェクトをご案内頂きました。

 前号で紹介したロンドンから続いてバルセロナを訪問しました。現地では、昨年の8月末より在外研究中の龍谷大学の阿部大輔先生に、旧市街地と新市街地における都市再生の様々なプロジェクトをご案内頂きました。

■旧市街地における多孔質化

 先ずは、1980年代以降、急激な人口減少と不法移民の流入などにより不良住宅地化した旧市街地の対策として、行政主体で老朽化した建築物を選択的にスクラップし、小公園や遊歩道などを差し込むように整備、市民が集まる美術館や図書館、大学の一部を移設、既存の市場を再生するなどが行われていました。日本の都市再生にも大変参考になったいわゆる多孔質化を行う「バルセロナ・モデル」の舞台となった地区を見学しました。多孔質化による新たな公共空間の創造は、周辺の建築物の修復や街路空間の再整備、土地の収用により影響を受ける居住者への代替住宅の建設など、様々な整備が連鎖的に行われていました。その結果、公共空間に人が集まり、佇み、憩うことにより、新たな人の流れが生まれていました。特に、あえてスラム化した街区に遊具を配した児童遊園を整備し、子どもやファミリー層を呼び込むことで近寄れない場所をなくしているという戦略が印象的でした。


■経済の低迷と「バルセロナ・モデル」への批判

 世界的な都市再生のお手本となった「バルセロナ・モデル」ですが、オリンピック以降、経済が不況下し市場経済主導に代わっていく中で変貌していきます。特に「旧工業地域(ボブレノウ地区)の22@BCNプロジェクトの産業クラスター誘導の停滞やジャン・ヌーベル設計の周辺から断然した中央公園などについては、歴史保全や生活環境の改善などの生活者視点から行政のトップダウン型の都市計画に陥ったとの批判があるとお聞きしました。


■女性市長によるポスト都市再生の時代へ

 2015年には、若い社会活動家がバルセロナ初の女性市長に選出され、行き過ぎた観光都市化への抑制や公共住宅の整備など「社会的包括と空間再生の連動、すなわちアーバンデザインの福祉政策化(阿部大輔氏)」に施策を大きくシフトしているとの事でした。

 

旧市街地の多孔質化により小広場周辺に店舗が立地

スーパーブロック内の歩行者空間化

■都市の空き地の再生と道路空間の再編

 最近は、市の収用事業による多孔質化から、既にある公共空間の再利用へと施策を転換し、空き地に着目したコミュニティ農園としての暫定利用や、新市街地の9街区を1辺約400メートルのユニット(スーパーブロック)として捉え、内の街路を歩行者空間化するなどの大胆な社会実験が行われていました。また、新市街地では、建て替えに際してセットバックではなく、中庭側を公園に再生する(裏セットバック)など、果敢にチャレンジする姿に、日本の都市の未来を考えていく上で、沢山のアイデアを頂きました。


■町中に溢れる「もう観光客は要らない!」という観光公害に対する運動

 旧市街地の住宅が民泊やホテルに改築され家賃水準を上げる事で、低所得者層が住めなくなる、地域住民のための店舗や町工場が観光客向けの土産屋やチェーン店に変わっていく。ツーリストが夜に騒ぐなど、京都や大阪などで起こっている観光公害の状況がさらに進んでいました。
政策的には、ホテルやツーリスト向けの店舗を規制するゾーニングや、旧市街地での新規ホテル建設は規制して郊外に誘導するなど、相次いで展開しているとの事です。
 「嘘だらけの都市バルセロナ・モデル!」という声が上がるほど、市民主体のまちづくりの軽視、公共投資による地価上昇により低所得者層が住めなくなってきているという現実があります。現地を見学しながら説明を受けて、バルセロナも全世界的な観光都市化に際して、葛藤する都市であることを再認識しました。

 

◆追伸◆

 まだまだ怪しい雰囲気が漂うラバル地区のさらに奥に、地元の人々があつまるブライ通り(別名ピンチョス通り)があるというので行ってきました。10軒以上のバルが集積していて、当然ながら道路空間で心地良い風を感じながらのバルセロナのセンシュアス(官能的)な夜を体験することができました。お勧めです。

センシュアスはブライ通り(別名ピンチョス通り)

大阪事務所長/中塚一

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