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230号(2021年11月号)特集「つとめて」

お勤め 職業倫理


「〝禁裏御用〟とは何ですか?」と、ご質問を頂いております。

「〝禁裏御用〟とは何ですか?」と、ご質問を頂いております。
王室御用達
 イギリスにはロイヤル・ワラントと言って、王室に商品を納め、或いはサービスをお勤めする業者に、納入許可証が発行され、紋章を店に掲げたり、パッケージに印刷したりできる制度があります。
 その5年毎の審査は厳しく、場合によっては剥奪されることもあります。紅茶のトワイニングや洋服のバーバリー、チョコレートから洗剤まで多種多様で、お店の多くはバッキンガム宮殿近くの街の中にあって、普通の市民でも、旅行者でも求めることができます。

禁裏御用達
 わが国でも似たことで、昔、京都御所の近くに、宮中へ品物やサービスを納める業者がたくさんありました。これを「禁裏御用」と呼んでいました。装束・冠・扇子・人形・履物、日用の食器、米・酒・味噌・野菜・魚・菓子・香などから、建物の普請まで多種多様で、元禄期には宮中お出入りの商人・職人は300人程もあったという記録があるそうです。

品質保証と文化的風土
 洋の東西で共通していますが、高貴な方とは教養があり眼が高く、その方々の好みに適い、ご愛用頂くことは、商品・サービスの品質が確かであると証明されている、つまり値打ちが上がり、信用がつくということでは同じでした。従ってどちらも厳正な審査制度を設けてきました。しかし、イギリスと日本では、違いがあります。
 イギリスは、女王と夫君及び皇太子、お三方個人の「好み」が前面にあって、各々方の紋章が与えられるのですが、日本では宮内省(戦前)なり宮内庁の「御用達制度」でもって許可や表記がなされ、どなたかの「好み」は後に付いてくる感じで、各々方の「紋章」はありません。

御用達制度の今昔
 現在、宮内庁御用達の制度はありません。昭和29年(1954年)に廃止されました。表向きは職業の機会均等ですが、その背景には、明治24年(1891年)の「宮内省御用達制度」時代に、しばしば御用の濫用を禁止するお達しが出されていたように、業者の側に御用達を広告宣伝に利用する者が後を絶たなかったことがあります。現在、宮内庁の物品・サービスの調達は、他の官庁同様に入札制が一般です。

商道徳・職業倫理
 こんにち、ほんものの元禁裏御用商であったお店では、その誇りは伝え、品質保持に努めていますが、商品や広告に表示することは厳しく慎んでいます。
 その多くは、何代も続くいわゆる老舗です。なにぶん、1200年間も首都であり続けた京都です。永い歴史の中には、禁裏との深い物語もあります。宮家や公卿ともお付き合いがありますが、自分から宣伝することはありません。
 現代の消費者は、そのようなお店で、御所出入りの鑑札などが文化財資産としてさりげなく展示されていて知ることはできますが、「禁裏御用達」と銘打った品そのものを求めることはできません。
 得られるのは、京都の商人や職人の、職業の品格を守り高める凛とした「心」なのです。
 そして、国民の上に立つ、王室・皇室には、「誠実」「倫理」が求められるのです。ひいては、大統領・宰相、さらには会長・社長なども誠実であることが問われます。アルパックは最高の規範を「倫理規定」とし、社員を縛るのではなく、トップが心得るべき規範としている所以です。

元・禁裏御用商の例:江戸末期の建築

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名誉会長 三輪泰司

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