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210号(2018年7月号)特集「おとなり」

アマチュアの視点が都市を変革する!?


かのジェイコブズは偉大なるアマチュア、関西風に言えば「どてらい(すごい)おばちゃん」だったとする論があります。

 かのジェイコブズは偉大なるアマチュア、関西風に言えば「どてらい(すごい)おばちゃん」だったとする論があります。
 ジェイコブズとはもちろんジェイン・ジェイコブズ女史のこと。都市計画に関わる者にとってはなじみの深い人物でしょう。最近、日本でも『ジェイン・ジェイコブズーニューヨーク都市計画革命ー』という映画が公開され、話題になっています。この映画はドキュメンタリーではありますが、ニューヨークのマスター・ビルダーと呼ばれたロバート・モーゼスという悪役にジェイコブズが果敢に闘いを挑む姿を描くという娯楽的要素もあり、一般向けとしても楽しめる工夫がされています。
 彼女の著作で一番有名なのはいうまでもなく『アメリカ大都市の死と生』(1961年)でしょう。いわゆる、複数の来訪目的、短い街区、複数の年代の建物、十分な人口密度、という「アレ」(ジェイコブズの4大原則などと呼ばれています)を提案した名著です。50年以上も前に都市の多様性に着目し、複雑系の考え方にまで接近した都市計画の必読書として、レターズの読者にもご存知の方は多いと思います。
 ジェイコブズは学者でも技術者でもなく、おとなりさんにもいるような普通の主婦でした。都市計画に関してはアマチュアです。先の「アレ」は、自身が過ごした身近なグリニッジ・ビレッジの通りの様子を素直に観察する中から着想を得たもので、人並み外れた洞察力に支えられてはいるものの、それはアマチュアだったからこそ可能であったといわれています。著書の中にある「安心して歩けるためには通りに住むおとなりさんのよそ者を見る『目』が必要」、というのもおばちゃん的発想かもしれません。

 

 

 行政組織に所属し、巨大再開発や高速道路建設を進めようとするモーゼスとの闘いは市民活動的に進められ、その原動力となったジェイコブズはまさに「どてらいおばちゃん」だったのではないでしょうか。ジェイコブズはジェントリフィケーションを招いた、といった批判も一部にはありますが、スポンジ化、リノベーション、マネジメントなど現代の私たちの都市を取り巻くキーワードも、アマチュアの素直な視点で見直してみると新しいヒントが見つからないものでしょうか。

都市・地域プランニンググループ/坂井信行

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