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208号(2018年3月号)特集「はるばる」

スロベニア共和国の来訪神クーレントの伝統行事


来訪神は世界各地に存在していますが、そんな中、スロベニア共和国の来訪神であるクーレント(Kurent)が“Door-to-door rounds of Kurenti”として平成29年12月にユネスコ文化遺産に登録されました。

 来訪神は世界各地に存在していますが、そんな中、スロベニア共和国の来訪神であるクーレント(Kurent)が“Door-to-door rounds of Kurenti”として平成29年12月にユネスコ文化遺産に登録されました。
 クーレントはキリスト教のCandlemas※注からAsh Wednesday※注までの期間に行われるスロベニア共和国の北東部の都市プトゥイ(Ptuj)に伝わる伝統行事です。厳しい冬を追い払い、春を呼び込むとともに、訪れた家には幸福が訪れるとされています。
 その装いは一度目にすると忘れることができません。地域によって差異がありますが、毛皮を身に纏い、腰には大きな5つのカウベル、そして頭には独特な仮面を付けています。仮面は耳が七面鳥または鵞鳥の羽ででき、長い舌は織物や革、歯は豆で作られています。その他の顔のパーツも藁や木の皮、動物の皮などで作られ、頭にカラフルな短冊状の帯をつけています。

意表をつく独特な衣装で踊る

 クーレントはこの格好で家から家へと練り歩き、家主の周りを囲んでは飛び跳ねて踊ります。
 私は現在、夫の仕事の関係でスロベニア共和国の首都リュブリャナ(Ljubljana)で暮らしています。リュブリャナからクーレントが現れるプトゥイまでは車で1時間半程度。今回、クーレントに会いにプトゥイへ行ってきました。
 私がクーレントが現れるのを待っていた場所はTurnišče castleという所です。この時期のプトゥイの平均気温は0度と非常に寒いですが、クーレントが現れると聞いていた時刻よりも少し早めに行ってみると、地域の人がすでに集まり、ワインやパンなどを食べて盛り上がっていました。スロベニア人は非常に寛容で人懐っこい人が多く、よそ者の私達にもパンなどを勧めてくれ、クーレントが現れるのを一緒に待ちました。

まちのカーニバルでも行進するクーレント

クーレント


 子ども達の中にはクーレントに仮装をしている子もいて、小さい頃から地域のアイデンティティーに親しんでいるように感じました。
 時刻が近づいてくると15分置きくらいに男の人3~4人が木と縄で出来たスティックを空高く振り回し、パンパンと音を鳴らしはじめました。
 そしてしばらくすると遠くからカウベルの音が微かに聞こえ始め、段々大きくなっていったかと思うと、目の前に20体以上のクーレントが現れカウベルの大きな音を鳴らしながら家主を囲って踊り始めました。
 踊りが終わると仮面を外し、その場を少し飛び跳ねながら回っていましたが、体からは重い衣装を着て踊っていたので湯気が立ちのぼり、この会場の熱気を象徴しているように感じました。

Kurentに仮装をしている子ども達:小さい頃から地域のアイデンティティーに親しんでいるように感じる

Kurentに仮装をしている子ども達:小さい頃から地域のアイデンティティーに親しんでいるように感じる

 これまで海外を旅行して街並みや建物等を見て回ったことはありましたが、伝統行事を見たのは初めてでした。信仰等、異なることも多いですが、古来から続く伝統行事をみると、季節の移り変わりを尊び、地域住民の幸福を願い、災厄をはらうといった同じ目的・価値観が受け継がれてきており、根底にある願いは万国共通なのだと実感しました。
 また、仮面や衣装の様相は日本と異なりますが、鳥の羽や藁、皮等、その地域で取れる自然素材から作られており、例えば日本の来訪神である吉浜のスネカは腰にアワビの殻をさげているなど、共通点と伝統行事が伝わる地域の特徴からくる違いを見比べることの面白さも体感しました。
注:Candlemasは2月2日のこと。またAsh Wednesday(灰の水曜日)はキリスト復活祭にあわせて設定されるため、毎年日程が異なるが今年は2月14日であった。

地域再生デザイングループ/岡崎まり

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