アルパックニュースレター180号

これからの〈まちづくり〉の「進化」を目指して

執筆者;竹井隆人/政治学者(アルパック顧問 (株)都市ガバナンス研究所代表)

 このたびアルパックの(政策担当)顧問に就任いたしました。同社に関わる皆様に、これから多くの業務でご一緒させていただくことの挨拶を申し上げるとともに、これから同社と如何なる連携を為し、そこに小生が如何なる期待を抱いているかを、ここに披瀝させていただきたく思います。

1.〈まちづくり〉の実務

 まず自己紹介ですが、私はこれまで〈まちづくり〉について、実務および研究の両面で深く関わってきました。実務面では、長らく政府系金融機関にて〈まちづくり〉、すなわち面的整備事業ならば法定市街地再開発、密集市街地整備、震災復興など、そして個別事業ならば分譲マンション建替え、コーポラティブ方式、定期借地権方式、コンバージョン、ゲーテッド・コミュニティ開発など、といった幾多の開発事業を手掛けて参りました。それも、金融の営業(フロント)として与えられた事案にプロジェクト・ファイナンスを確保するにとどまらず、自ら事業を初動期から企画し、関係事業者の選定も含め事業全体を主導し、やがて成就させていく実績を積み上げて参りました。とりわけ事業主体が住民組合などで、合意形成が不十分、かつ与信の低い初動期段階では、資金確保を含め事業を軌道に乗せていくよう事業スキームを企画していき、その成就に結び付けた実績を挙げたため、職場からは表彰も受けております。
 このような経験をもって、アルパックの関わる各種の開発事業等のコンサルティングについて、主に資金面から事業の企画、推進に助力したいと思います。事業にとって金融は動力源(ダイナモ)であり、それを基軸として事業を組み立て、進めていくことは必須です。たとえば、融資というと金利や期間など主に融資条件に目が向きがちですが、事業主体の与信やプロジェクト収支、また資産・負債のバランスや資金実行のタイミングなども勘案し、昨今、流行のPFIの重要概念たるVFM(バリュー・フォー・マネー)にも通じますが、どのように資金を事業に活かすかを念頭に置いて業務協力ができれば、と思っております。

2.政治学者としての事績

  一方、私は実務家とは別に政治学の研究者としての顔をもち、これまで幾多の大学で講義を担当してきたほか、単著のほか共著、訳書を含め十冊余の著作を世に問い掛けてきました。政治学が実務としての〈まちづくり〉に如何に関連するのかと訝る向きがあるかもしれませんが、ちょうど先月に平凡社より発表した新著『デモクラシーを〈まちづくり〉から始めよう――シャッター通りから原発までを哲学する』が、この問いの答えになるものと思います。
 つまり、政治というのは集団的意思決定であり、〈まちづくり〉の本質たる合意形成は、政治に通じているのです。この〈まち〉を基点とした研究は政治学のみならず、建築工学、都市工学、法学、社会学、金融学、哲学などの多分野にまたがる学際性を帯び、また、その研究成果は実務に裏打ちされた実際性も兼ね備えていることから、高い一般的評価を得てきたものと自負します。
 さらには、震災復興、木造密集市街地整備、タウン・マネジメント、ニュータウン活性化などで、行政から各種委員や講演、相談を委託されてきた経験もあわせた幅広い視野と専門性をもって、アルパックによる行政委託の調査や研究、そして政策提言に貢献して参りたく思います。

3.京都への思い

  しかし、政策提言や総合コンサルタントを含めたシンクタンク機能をもつのは何もアルパックのみではありません。それでも私が同社との連携を望んだのは、私が京都に生まれ、この先、〈まちづくり〉でもとりわけ京都のそれに献身したいと思い定めており、それに最も実績をもつ機関が同社をおいて他にないと思ったからです。
 昨今、グローバリゼーションの大波に晒されて、日本全国の〈まち〉が画一化、均質化に向かい変貌していますが、京都もその例外ではありません。私は京都の祇園(東山区)に生まれましたが、その生家は周りの風景がバブルのころに一変し、ネオン街に成り果てて居住環境は悪化しました。祇園に限らず、京都の〈まち〉を眺めるたびに落胆することもしばしばありますが、ただ、京都には高さ制限や伝統的建造物群保存をはじめ、グローバリゼーションに抗した〈まち〉を維持、良化していく動きはまだ多く残存していて、〈まちづくり〉の果たす役割は今後も多くあるように思えます(図は私がいま取り組みつつある事例の一つです)。
 私が政治学者として拙著等で主唱してきた構想に「居住区デモクラシー」、つまり既存の地方公共団体よりも小規模で、より人びとに身近で人びと自身が主体となる「私的政府」を〈まち〉に創設することがあります。いま少しそれを具体にイメージいただくならば、たとえば〈まち〉に現存する自治組織や町内会などが、より政治権能を強化し、その〈まち〉を統御していく態様です。その効用は、〈まちづくり〉のみならず政治的にも大きな意義をもたらすものと考えられ、それを京都で実現できないかと思っているのです。


図「(仮称)祇園・高台寺コーポラティブハウス」
町家が立ち並ぶ「産寧坂伝統的建造物群保存地区」で初めて
となる開発事案を企画し、今夏より入居者を募集する予定。

4.理想のガバナンス

 私は長年にわたり「ゲーテッド・コミュニティ」を研究して参りました。それは〈まち〉の周囲を壁やフェンス等で取り囲むアメリカの居住区形態で、いまや、わが国でも分譲マンションでならばチラホラ見かけるようになりました。有識者には、これを格差社会化と結びつけた「成功者の楽園」として非難する向きも多いですが、私は少し違った見方を持っていて、それにタウン・マネジメントの基盤としての積極的評価を与えています。
 このために、アメリカで隆盛する道路封鎖型の簡易な「ゲーテッド・コミュニティ」を京都に適用することを提言します。すなわち、江戸時代は町組ごとに木戸を設置し、それを夜間に封鎖したのを参考に、現代版木戸によって歩行者は通行フリーにする一方で、歩行者以外の車両等は通行を制限し、内部居住者専用車両か、インターホンで所用ある車両、そして緊急車両のみがオート・ロックを解除して通行できるようにすれば如何かと思うのです。この現代版木戸を京都市街の四条通り、烏丸通りなどの幹線道路の内側にある小街路について、町内ごとの境に設けるのです。
 この提案は京都市が従来より標榜する「歩く〈まち〉」にも資するはずですが、これは観光客をはじめ多くの人びとが歩いて〈まち〉に目を留めることでその活性化を促すにとどまらず、タウン・マネジメントの面で期待できます。すなわち、この現代京都版の「ゲーテッド・コミュニティ」を実現するためには、〈まち〉が一団地として「接道要件」を充足し、その「私的政府」が封鎖する道路の管理をはじめ、〈まち〉を統御していく政治的権能をもつことが必須条件となるからです。それは、将来的な不安が囁かれている行政による道路の維持管理を〈まち〉=「私的政府」が代替していくことも意味することになるでしょう。さらには、「接道要件」を満たしていないために建築基準法等の法規制の枠外(既存不適格)に置かれた老朽化した木造建築物を合法化して、その改修や建替えを促して、〈まち〉を良化させる可能性ももつのです。
 この拙案により達成された「究極の地方分権」は、共同性といえば「コミュニティ=仲良し」しか選択肢がなかった現状から、「ガバナンス=政治的共同性」を新たに創造し、人びとに「政治的責任」を備えさせるために、未達のデモクラシーを成就させるものと私は信じています。
 以上がアルパックとともに政治学者として〈まちづくり〉を「進化」させていこうという私の理念であり、意気込みともなるのです。皆様、これからどうぞよろしくお願いいたします。

略歴

 1968年京都市生まれ。東京大学大学院修士課程修了(政治専攻)。博士(学術)。長らく政府系金融機関にて〈まちづくり〉に従事後、本年より、 (株)都市ガバナンス研究所代表として、京都を中心に〈まち〉の新規開発、町家 再生などの事業企画やファイナンス確保、あるいは行政支援などに邁進。
http://www.toshi-governance.co.jp/
これまで立命館大学講師など歴任。 単著に『社会をつくる自由』(ちくま新書)、『集合住宅と日本人』(平凡社) など、ほか共著、訳書多数。受賞歴に「都市住宅学会賞」など。